大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松地方裁判所 昭和57年(ワ)539号 判決 1984年9月28日

原告 横内雅子

右訴訟代理人弁護士 中村詩朗

同 宮崎浩二

被告 東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役 松多昭三

右訴訟代理人弁護士 田中登

右訴訟復代理人弁護士 桑城秀樹

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  原告訴訟代理人は「被告は原告に対し、金八三四万円及びこれに対する昭和五七年一一月一一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、次のとおり陳述した。

一  交通事故

1  日時 昭和五五年一〇月三一日午後三時五五分頃。

2  場所 愛媛県川之江市金生町字板屋八八九番地の二、駐車場内。

3  加害車 自家用小型貨物自動車(愛媛四四ね一一一六)。

4  態様 村上隆幸(以下村上と称する。)が前記加害車を運転して前記駐車場内において後進中、駐車中の自動車に衝突し(以上の交通事故を以下本件事故という。)、よって同自動車に同乗の横内梅子(当時六九歳、以下梅子と称する。)に左腕関節挫傷、腰椎挫傷、右背筋・腰筋挫傷、左足背打撲傷の傷害を負わせた。

二  診療経過

梅子は、本件事故により、昭和五五年一一月六日三豊総合病院で受診した後、川之江市金生町の小笠原外科医院に転医し、同医院に同月一三日から同月二七日まで通院し、同月二八日入院したが、同年一二月二四日、心筋硬塞による心不全のため同医院で死亡した。

三  原告、被告の地位

1  原告は梅子の娘であって唯一の相続人である。

2  被告は左の自動車損害賠償責任(以下自賠責と称する。)保険契約の保険者である。

(一) 保険証明書番号 T四二―二三〇八二三三

(二) 保険期間 昭和五五年三月三日から一二か月間

(三) 保険契約者 まるお食品有限会社

(四) 自動車 加害車

四  因果関係

1  原告は、自動車損害賠償保障法(以下自賠法という。)に基づき、被告四国支店に対し、昭和五六年五月二六日自賠責損害賠償額の請求をしたが、同年七月二七日、本件事故による傷害と死亡との間に相当因果関係が存在しないものとして支払を拒絶された。

2  しかし、梅子は、数十年間にわたって助産婦を業としていたものであり、老齢のため高血圧、心臓肥大、糖尿病はあったものの、本件事故当時、原告とともに助産婦としての業務に従事するほか、家事手伝もなし、六九歳という年齢相応の健康状態にあったものであるが(梅子の病歴、受診経過は別紙記載のとおりである。)、本件事故によるショックのため血圧異常を起し、本件事故による心因的ストレス、不安感、焦燥感など心因性の要素が本件心筋硬塞の発作の誘引となったものであり、本件事故と心筋硬塞による梅子の死亡との間の因果関係については、相当性が認められるものというべきである。

3  予備的主張

(一) 本件は自賠法三条による損害賠償請求事案ではなく、同法一六条による損害賠償額請求事案である。

(二) 自賠法は、その立法趣旨から交通事故被害者の救済のため、請求者において因果関係の相当性につき立証が尽くされていなくとも、その支払を拒絶することなく、減額支給すべきものとしている。すなわち、自賠保険損害査定要綱第五の2において「受傷と死亡との間……の因果関係の認否が困難な場合は、……減額を行う。」と定められている。

(三) 右規定は、自賠法三条における過失の立証責任の転換と同様、因果関係の存否についても、その相当性がないとの立証がなされない限り、減額支給をすべき旨を定めたものといえる。

(四) したがって、仮に本件において因果関係の相当性の存在につきその証明が十分でないとしても、その不存在が積極的に証明されない以上、裁判所において相当と認める減額をした上、被告に対しその支払を命ずべきである。

五  梅子の損害賠償額について

1  本件事故の損害賠償額については、昭和五四年二月一日実施の損害査定要綱によることになる。なお、右要綱は昭和五六年五月一日に増額改正されている。

2  梅子の損害賠償額については、事故時六九歳、女子、被扶養者のない有職者(家事従事者を含む。)遺族一名として、右要綱により左のとおり金八三三万四九七六円と算出されるが、自賠責保険の取扱上は、一万円未満はすべて切上げて支給されているから、その金額は金八三四万円である。

114,000×12×0.5×4.364+350,000+2,000,000+3,000,000=8,334,976

六  よって原告は被告に対し、金八三四万円及びこれに対し被告に対する本訴状送達の日の翌日である昭和五七年一一月一一日から支払済まで、民法所定の年五分の割合による損害金を加えて支払を求める。

七  被告の主張に対し、次のとおり述べた。

1  本件事故状況について

(一) 加害車の後退速度は時速二、三キロメートルなどという低速でなく、衝突による衝撃は相当に強度であって、加えて梅子は老齢のため、若年の健康体よりその影響は大であったものである。このことは、本件事故により被害車の後部右隅には長さ三〇センチメートル、幅五、六センチメートルの凹損を生じその修理に四万七一〇〇円を要していることからしても窺えるところであり、軽微な事故ではなかった。

(二) 梅子は、駐車場内に駐車中の自動車内にいたため、事故を全く予見せず、防禦体勢をとっていなかったことから、とっさに左手で体をささえたが体をねじり、前記傷害を負ったものである。

(三) 村上が警察への届出を怠っていたものである。

2  既往症について

梅子に高血圧症、心臓肥大症、糖尿病の既往症があったことは認める。

3  死因について

(一) 被告主張3(一)(1)の事実は認めるが、3(一)(2)の事実は争う。

(二) 被告主張3(二)について

(1) (1)ないし(3)の主張は認める。(4)の主張は争う。

(2) (5)の事実中、本件発作が用便中に発生したとの事実を認め、その余の主張は争う。

第二  被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、次のとおり陳述した。

一1  請求原因一について

梅子が負傷したこと及び傷病名を争う。その余の事実は認める。

2  同二の事実は認めるが、本件事故と梅子の死亡との因果関係は争う。

3  同三の事実は認める。

4  同四のうち

1の事実は認める。

2の事実は争う。ただし、梅子の病歴、受診経過が別紙記載のとおりであることは認める。

3について

(一) 自賠責保険の査定要綱のうちに、原告が引用するような規定が存在することは認めるが、その趣旨は争う。

すなわち、受傷と死亡との因果関係の認否が困難な事案に関し、しばしば裁判所が割合的因果関係をもって損害額の一部を認容することがあり、同規定は、自賠責保険の運用においても、これにならった取扱いをすることを定めたものである。

しかしながら、同規定の趣旨は、それに尽きるものであって、それ以上のものではなく、裁判上、保険会社に因果関係の不存在の立証責任を負わせたものでも、保険会社がその不存在を積極的に立証出来ない場合、裁判所に対し、割合的因果関係による判断を義務付けたものでもない。

(二) 一般に、自賠責保険の査定要綱は、同保険の適正妥当な運用と同時に、大量且つ迅速な処理を目的として定められた内部的な準則であって、裁判所を拘束するような規範的な意味を持つものではない(査定要綱は因果関係のみならず、過失相殺の割合、損害額等詳細な規定を置いているが、裁判所の基準と必ずしも一致しないことは周知の事実であり、裁判所がこれに拘束されないことは、確立した判例である)。要綱を根拠に、法律上立証責任が転換されるとか、割合的因果関係を義務付けるとかすることは、結局、要綱の規範的効力を認めたことに帰着するから、判例に反する結果を招くことになる。裁判所は、要綱とは別の観点から、立証責任の問題を判断することが出来る筈であり、更には、因果関係の認否が困難な時、割合的認定によらない判断をすることも出来るものと思料する。

5  同五は争う。

二  被告の主張

1  事故の状況について

本件事故は、まるお食品有限会社(契約者)の駐車場に駐車中の原告所有車に、方向転換のため後退中の加害車が後部から衝突したものであるが、加害車は、一二、三メートルの距離を時速二、三キロメートルの速度で移動中であったにすぎず、極めて軽微な衝撃しか与えていない。

警察が本件を事故扱いしていない事実は、事故の程度を裏書きする。

したがって、本件程度の衝撃により、原告車車内の人が負傷、ましてそれが死を招くような事態になることは通常あり得ないことであり、相当因果関係の見地からして、加害者側の責任の範囲外にある。

2  既往症

梅子は、約一〇年前から高血圧症、脳動脈硬化症、糖尿病、心臓肥大症及び冠状動脈硬化症の疾病があり、昭和五五年四月一五日には脳硬塞の発作を起して治療中であり到底健康状態とはいいえず、何時脳ないし心臓等に急性の発作が起きても不思議ではないような状況であった。

3  死因について

(一)(1) 梅子が心筋硬塞の発作を起したのは、昭和五五年一二月二四日朝であり、同日午後一時二〇分死亡している。

梅子は、同年一一月一三日より小笠原外科医院において往診並びに通院による治療をうけ、同年一一月二六日から同医院に入院中であった。

(2) 梅子は腰痛を訴えていた模様であるが、腰痛自体は、本件事故以前からのものであり、前記本件事故の状況からして、客観的にこれを増悪させるものではなく、仮に本件事故後、一時的に増悪したことがあったとしても、心因性の反応であったとみるのが相当である。そして、たとえ心因性の反応ないし、事故のショック(客観的にみれば、通常極めて軽微である筈である。)があったとして、事故後既に五〇日以上を経過しているのであるから、その影響により心筋硬塞が起きたとみるには、余りにも時間が経過しすぎている。

前記既往症からして、梅子は、何時心筋硬塞が起きてもおかしくない健康状態であったものであり、たまたまそれが事故直後であれば格別、右程度の期間が経過している本件の場合、自然死とみるのが妥当である。

(二)(1) 一般に、心筋硬塞を含む虚血性心疾患の危険因子として、(1)高コレステロール血症、(2)高血圧、(3)喫煙、(4)糖尿病、(5)肥満、(6)家族歴、(7)心電図異常が特に重要とされている。

(2) 梅子は、この内少なくとも、(2)、(4)及び(5)に該当していたものであるが、(1)の症状もあったことが窺知しうる。

(3) ところで、一個人に複数の危険因子がある場合、その危険性は、個々の因子の危険性の和よりも更に高い危険性を示すという相乗効果があるとされており、梅子の場合が、まさにこれに該当すると思料する。

(4) したがって、梅子は何時心筋硬塞が起きてもおかしくない状態にあったというべきであり、仮令本件事故がなかったと仮定しても、いずれ心筋硬塞の発症を免れない運命にあったものである。

(5) 本件事故による傷害については、心筋硬塞の発作が生じた当時には、既に軽快しており、発作自体は、同人が用便中に発生したものであって、恐らく用便による血圧上昇が誘因となったものと推定され、傷害による苦痛や疼痛ないし傷害の治療行為中に発生したものではないから、本件事故が直接的には勿論、間接的にも影響していた形跡は認められない。

第三  証拠《省略》

理由

一  請求原因一の事実は、梅子が負傷したこと及び梅子の傷病名を除き、当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、梅子は本件事故によって左腕関節挫傷、腰椎挫傷、右背筋腰筋挫傷、左足背打撲傷の傷害を負ったことを認めることができ、右認定を覆えすにたる証拠はない。

二  梅子は昭和五五年一〇月三一日午後三時五五分ころ遭った本件事故により、同年一一月六日三豊総合病院で受診した後、小笠原外科医院に転医し、同月一三日から同月二七日まで同医院に通院し、同月二八日同医院に入院したこと及び梅子が同年一二月二四日心筋硬塞による心不全のため同医院で死亡したことはいずれも被告においてこれを認めて争いがない。

三  請求原因三の事実は当事者間に争いがない。

四  本件事故と梅子の死亡との間の因果関係について検討する。

1  請求原因四1の事実は当事者間に争いがない。

2  《証拠省略》並びに前記各認定の事実及び当事者間に争いのない事実を総合すると、次の事実を認めることができる。

梅子は、明治四三年一一月一六日生の女性で本件事故当時満六九歳一一月であったが、本件事故により傷害を受ける以前である昭和四四年ころから高血圧症、脳動脈硬化症となり昭和四六年ころから糖尿病も生じ、本件事故当時高血圧症、動脈硬化症、糖尿病、心臓肥大症があり心筋硬塞になる要因を有していたこと。右各症状は全体としては次第に少しずつではあるが悪化してきていたこと。昭和五五年七月二一日ころから脳栓塞、脳動脈硬化症の軽い後遺症で身体が幾分不自由であったが、糖尿病の治療もして、同年九月二〇日ころは良くなり休んでいた助産婦業を始めるべく準備していたこと。

昭和五五年一〇月三一日午後三時五五分ころ本件事故の被害に遭ったこと。

梅子が本件交通事故によって受けた傷害は、(1)左腕関節挫傷、(2)腰椎挫傷、右背筋腰筋挫傷、(3)左足背打撲傷であること、右(1)と(3)は心筋硬塞の要因とは関係のないものであること、(2)のため梅子は腰痛が強くなり歩行困難となり腰椎コルセットを装着したこと、血圧を示す数値(mmHg、以下単に血圧と称する。)は、事故直前直後のころは最高が一五〇ないし一六〇位で最低が八〇位であったが、同年一一月六日には最高が一七六位、最低が一二〇位となったこと。

本件事故後、昭和五五年一一月六日から同年一一月一二日まで三豊総合病院に、同月一三日から同月二七日まで小笠原外科医院に各通院して治療を受け、同月二八日から右小笠原外科医院に入院して治療を受けていたものであること。

右小笠原外科医院に入院当初、梅子の食欲は旺盛であったこと。

同年一二月二日、五日、一五日、一六日、二〇日等の梅子の日記には村上が見舞にも来ないこと又は加害自動車の保険契約者であるまるお食品有限会社の関係者の梅子に対する対応に対し各不満を示す記載がなされていること。

本件事故について、梅子は、被害自動車に梅子が乗車していて被害を受けたにもかかわらず物損事故のみとして処理されたとして梅子は泣寝入りの状況にあるものと意識をしていたこと。

梅子の血圧は、

同月三日には、最高一七四、最低八〇

同月九日には、最高一六四、最低八〇

同月一六日には、最高一五八、最低八五

同月一七日には、最高一四六、最低七六

同月一八日には、最高一五八、最低八四

同月二二日には、最高一三〇、最低六八

同月二三日には、最高一五八、最低九〇各位となっていたこと。

同月一五日には腰痛、下肢の疼痛はかなり軽快し、全身症状は良好となっていたこと。同月一七日、一八日には特別変った様子はなかったこと。同月一九日には咽頭発赤軽度微熱がありいわゆる風邪の症状があったが、同月二〇日には下熱し、同月二一日には全身の状態良好、腰痛もかなり軽快し、同月二二日には右感冒症状消失し、同月二三日には心拍数は七〇ないし八〇位で全身症状は比較的安定していたこと。腰痛は少し残っていたものの本件事故で負傷した傷害は治癒に近づいていたこと。

梅子は、同月二四日午前七時二〇分ころ用便中、急に胸が苦しくなり呼吸困難となり、冷や汗嘔吐の症状があり、血圧は最高一一六、最低七〇位になり冠不全、狭心症の症状を呈し、小笠原一男医師、藤田公朗医師においてニトロール舌下錠等を服用させ酸素吸入、点滴をなすなどの手当をした結果、同日午前九時ころには血圧も最高一三〇、最低七〇位にまで回復したが、同日午後一時過ぎころになり急に呼吸困難となり意識混濁となって心筋硬塞を起し、午後一時二〇分死亡したこと。

同日梅子が本件事故に関する前記不満等を口走りあるいは話題としていたことは認められないこと。

右小笠原一男医師は、梅子は本件事故のことを気にしている様子であり、梅子の心筋硬塞による死亡は事故によるショックが引き金の一つになっていると思うが大きい比重をもっているものとは思えない、事故によるストレスが右死因に若干関係がある旨述べていること。

右藤田公朗医師は、梅子の事故によるストレスは死因である心筋硬塞の直接の引き金になっていることではなく、動脈硬化の程度を進める引き金になっている可能性があるものであるとし、ストレスと本件死因との関係は消極であると解していること。

坪井修平医師は、梅子の死因となった心筋硬塞はストレスと高血圧、糖尿等が加わって生じたものであり、梅子に糖尿病、高血圧症という基盤がありこれにストレスが加わって心筋硬塞が生じたものであり、ストレスが心筋硬塞の引き金になっていることは否定できないが、その割合を測定し定めることは困難であること、また同時に梅子には高血圧症、糖尿病があったものであって、これにストレスがなければ心筋硬塞が起らなかったかというとそのようにもいえないし、ストレスが心筋硬塞を起したことにどれ位の因子になったかは不明である、またストレスの性質、大きさ、本人に与える影響は種類に富んでいて梅子がどれ程大きく感じていたかによって異るがその判定は不能であると解していること。

以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすにたる証拠はない。

以上によると、本件事故によって生じた梅子の傷害そのものは直ちに心筋硬塞の原因そのものをなすものとは認められないし、本件事故による傷害は順次快方に向っていたものであること、本件心筋硬塞は本件事故後五三日余を経過して生じたものであることが認められるところである。

ところで、梅子は本件事故につき村上が見舞に来なかったこと、加害者との間に話し合いが順調に進んでいないことなどに対し腹立たしく思い不満を感じていたこと、それが小笠原外科医院へ入院後も脳裏を離れなかったであろうことは推認に難くないところであるが、梅子の日記の記載によれば不満がある旨の記載も連日ではなく、記載された日についても間隔があったこと及び昭和五五年一二月二四日朝用便のころ梅子がストレスを感じたか否か、またストレスを感じたとしても、それが本件事故そのものによるものであったか、あるいはよって生じた腰椎挫傷によるものであったか否かあるいはその他の事由によるものであったか否か及びストレスの程度、大小も明らかではないこと、並びに、梅子が本件心筋硬塞を生ずる直前に特に本件事故に関する不満の事項を口走りあるいは話題にしていたりしたことも認められないことによると、梅子が本件事故によって生じもっていたストレスそのものが梅子の本件心筋硬塞の引き金になったか否かまたなったとしてもどの程度作用をしたかは不明であり、他方、梅子にはストレスがなくても心筋硬塞発病の素地があったことに照らすと、梅子の本件事故に関するストレスと本件心筋硬塞との間に相当因果関係を認めることは困難である。

3  原告は、自賠法一六条による損害賠償請求事案では、自賠保険損害査定要綱第五の2において「受傷と死亡との間……の因果関係の認否が困難な場合は、……減額を行う。」と定めているところから、因果関係の相当性について立証が尽くされていなくても、因果関係の不存在が積極的に証明されない限り裁判所において相当と認める減額をした上被告にその支払いを命ずべきであると主張し、同査定要綱の中に原告主張のごとき規定が存在することは被告においてこれを認めて争いがなく、《証拠省略》によると、同査定要綱第五の2で「因果関係の認否が困難な場合の減額、受傷と死亡との因果関係の認否が困難な場合は減額を行う。」と定めていることが認められる。

しかしながら、右は、自賠責保険の査定につきその運用の方法を定めているにすぎないものであり、因果関係の相当性がないことの立証のなされない限りあるいは因果関係の不存在が積極的に証明されない限り裁判所が原告主張のごとき割合的判断をなすべきことを義務付けたものではないから、原告の右主張は採用しえない。

五  してみると、爾余の争点について判断するまでもなく原告の本訴請求は理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 菅浩行)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例